日々の重なり

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『ONE PIECE』の好きなところ~「読みやすい文章」との関連から~

 こんにちは。

 今回は、尾田栄一郎先生の漫画『ONE PIECE』の好きなところについて、前回の記事で触れた「読みやすい文章」と関連付けて、書きたいと思います。

*記事の後半で、『ONE PIECE』69巻で描かれる重要なシーンに言及するので、『ONE PIECE』ファンでまだ69巻を読まれていない方は、閲覧に注意して頂ければと思います。

 

 

 僕はコミックスの10巻くらいが出た頃から『ONE PIECE』を読み始め、それ以来、毎巻欠かさず購入して愛読しています。ちなみに好きな登場人物は、ウソップとX‐ドレークで、二人のフィギアは棚の上からいつも僕を見守ってくれています(笑)。

 

 前回の記事で僕は、読みやすい文章=「無駄な記述が削ぎ落とされており、筆者の主張がコンパクトにまとまった文章」だと書きました。

 『ONE PIECE』には、読者の心を揺さぶる名台詞が数多くあります。それらは、尾田先生の意図をストレートに伝える、まさしく「読みやすい文章」です。

 一方で『ONE PIECE』には、台詞以外にも、尾田先生の主張をコンパクトに伝える、独自の表現技法が存在します。今回は、そうした独自の表現技法のうち①笑い声の工夫と、②あえての効果音の省略について、僕の意見を書いていきます。

 

 

①笑い声の工夫 

 尾田先生は、笑い声を工夫することによって、登場人物の性格・キャラを的確に表現されています。

 ⅰ たとえば、敵方として登場するサー・クロコダイルの笑い声は、「ハハハハ」です。「ク」から始まることから、ややこもった発音となり、口を歪めながら冷やかに笑う様子がイメージできます。実際にクロコダイルは、任務を果たせなかった部下を切り捨てるような、非常に冷酷な人物として描かれています。

 

ⅱ また、同様に敵方であるゴッド・エネルの笑い声は、「ハハハハ」です。「ヤ」という開放音から始まることから、明るく無邪気に笑う様子が連想されます。

実際にエネルは、神として空島に君臨する存在であり、無邪気かつ残酷な人物として描写されています。

 

ⅲ さらに、黒ひげ海賊団船長のマーシャル・D・ティーチの笑い声は、「ハハハハ」です。豪胆で、得体の知れない不気味な人物として描かれているティーチの性格が、この笑い声に端的に表現されていると思います。

 

ⅳ 一方、主人公ルフィの仲間ニコ・ロビンが幼少期に出会った巨人海兵、ハグワール・D・サウロの笑い声は、「デレシシシ」です。現実にはありえないような、奇妙な笑い声ですよね。

 しかし、こうした変な笑い方をするところに、サウロの人間味・人間くささが表現されており、サウロの魅力の一つになっているように感じます。尾田先生は、ロビンの悲劇的な幼少期を描くにあたって、少しでも明るい要素を読者に対して発信するために、サウロの笑い声をあえて「デレシシシ」とされたのだと思います。

 

  ここまでみてきたように、尾田先生は、登場人物の笑い声を工夫することによって、「このキャラクターは、こんな奴だよ!」ということを、シンプルに表現されているのだと思います。

 

 

②あえての効果音の省略

 『ONE PIECE』では様々な効果音が用いられ、場面に臨場感がもたらされています。たとえば、敵を倒したシーン 等で使用される「ドン!!」がその代表例です。この「ドン!!」によって、戦闘シーンの迫力がより増すことになるわけです。

 

 もっとも『ONE PIECE』においても、敵を倒したシーンにもかかわらず、「ドン!!」が使われなかったシーンがあります。それは、トラファルガー・ローがヴェルゴを打ち破ったシーンです(69巻・第690話参照)。このシーンでは、ヴェルゴを倒したローの姿が1頁にわたって描かれるのみで、「ドン!!」等の効果音は一切使われていません。敵を破った場面において効果音を省略したのは、これが初めてではないかと思います(多分)。

 

 僕にとって、このシーンは衝撃的でした。なぜならば、「敵を倒したらドン!!」という先入観があったからです。尾田先生は、そうした読者の固定観念を壊したかったのではないでしょうか。

 超新星時代、ローはヴェルゴに歯が立ちませんでした。ヴェルゴは、ローやルフィら新世代の海賊の前に立ち塞がる、従来からの支配層を象徴する存在です。ローにとってヴェルゴは、新世界を駈け上がる上で、絶対に越えなければならない宿敵だったわけです。この場面でローが収めた勝利は、新世界を歩み始めたルフィ達にとって、超新星時代の勝利とはまるで異質のものであるということを、尾田先生は読者に印象付けたかったのではないかと思います。

 

  このように尾田先生は、あえて効果音を省略することによって、読者に対し一定のメッセージを発信されたのではないかと考えます。

 

 *そういえば、たしか23巻で、ルフィがクロコダイルを倒したシーンの一コマでも、効果音が一部省略されていた気がしますね。

  あと、たしか44巻で、ルフィがロブ・ルッチを破ったシーンの一コマでも、効果音が部分的に省かれていた記憶がありますね。

 しかし、戦闘シーンでの効果音を完全に省いたのは、本文で言及したシーンが初であったと思います。

 

 

 ここまでみてきたように、尾田先生は、読者に一瞬で意図が伝わるよう、様々な工夫を凝らされていると思います。緻密なストーリーや魅力的な登場人物はもちろんですが、そうした研ぎ澄まされた表現も、僕が『ONE PIECE』を好きなところです。

 

 以上となります。僕の趣味全開の記事を読んで頂いて、ありがとうございました。

 それではまた。