国際法による武力行使規制と、憲法9条
こんにちは。
今回は、国際法による武力行使規制と、憲法9条による枠組みを、比較してみたいと思います。
最近は下火になっていますが、少し前までは、米国等のシリアへの軍事介入の可能性について、よくニュースになっていました。この点についてブラヒミ国連・アラブ連盟共同特別代表は、「軍事介入には国連安保理決議が不可欠だと国際法は明記している」という指摘をしています。
この意見を聞いて僕は、武力行使に関して国際法はいかなるルールを定めているのだろうか?と関心をもちました。
また最近では、集団的自衛権をめぐって、憲法9条の解釈改憲が話題になっています。新進気鋭の憲法学者である木村草太准教授によると、こうした安全保障の問題を検討する際には、国際法を視野に入れる必要があるそうです。
そこで今回、国際法と憲法9条の枠組みの比較をしてみよう!と考えるに至ったわけです。
以下では、①で国際法による武力行使規制をみて、②で憲法9条による枠組みを確認した上で、両者を比較します。
*今回の記事を書くにあたっては、主として以下の文献を参考にしています。関心がある方は是非読んでみて下さい。
・木村草太著『憲法の創造力』(NHK出版新書、2013)終章
・防衛省・自衛隊ホームページ掲載の「憲法と自衛権」(http://www.mod.go.jp/j/approach/agenda/seisaku/kihon02.html)
国際法とは、国際社会で各国の行動の正・不正を判断する基準です(前記『憲法の創造力』220頁) 。
現代の国際法の下では、武力行使規制は以下のように整理されます。
原則として、武力を行使してはならない(国連憲章第2条4項)。
もっとも、以下の3つの場合には、例外的に武力行使が許される。
ⅰ 国連安全保障理事会の決議に基づいて、国連軍を結成する場合(国連憲章第7章)
*自衛権とは、「自国の国家秩序に対する「急迫不正の侵害」を除去する権限」(前記『憲法の創造力』216頁)
例えば、外国によるミサイルの発射準備や、攻撃目的の戦闘機の領空侵入などが、「急迫不正の侵害」にあたる(前記『憲法の創造力』216頁)。
**集団的自衛権の行使とは、「他国の自衛権行使への協力」(前記『憲法の創造力』221頁)
国際法の規制に関連する具体例を挙げると、9.11テロ後のアフガニスタン攻撃について、アメリカ軍の行動は個別的自衛権の行使(ⅱ)として、イギリス軍の行動は集団的自衛権の行使(ⅲ)として、説明されています(前記『憲法の創造力』221頁)。
なお、歴史上、正規の国連軍(ⅰ)が結成されたことはありません(前記『憲法の創造力』221頁)。
19世紀における国際法の議論では、武力行使や戦争は、適法であると考えられていたそうです。
しかし、20世紀以降の国際法では、武力行使や戦争が違法なものと捉えられるようになり(「武力不行使原則」)、例外的に武力行使等が認められるのはいかなる場合なのか?という点に、議論の軸足が移っていったようです。
例外的に武力行使が許容される場合をめぐる論点として特に重要なのは、自衛権の範囲でしょう。なぜならば、自衛権の範囲が明確にされなければ、武力不行使原則が骨抜きにされかねないからです。
*自衛権の範囲を明確化することの重要性については、森肇志著 『自衛権の基層 -国連憲章に至る歴史的展開』(東京大学出版会、2009)2頁で指摘されています。
同書は、19世紀中葉から国際連合憲章制定までの自衛権概念の歴史的展開を分析したものです。僕はまだあまり読めていないのですが、かなり勉強になりそうな本です。専門書なのに文章もすごく読みやすいし。
②憲法9条による枠組み
従来からの政府見解を前提とすると、武力行使に関する憲法9条の枠組みは、以下のようになります。
原則として、武力を行使してはならない。
もっとも、個別的自衛権の行使にあたる場合には、例外的に武力行使が許される。
①国際法の規制と比較すると、武力不行使原則を定めている点では、同じです。
しかし、①国際法では武力行使ができる例外として認められていた、ⅰ国連安保理決議に基づく場合と、ⅲ集団的自衛権の行使にあたる場合が、②憲法9条による枠組みでは除外されています。
では従来からの政府見解は、どういったロジックによって、「武力行使が許される例外に、集団的自衛権は含まれない」という結論を導いているのでしょうか?
従来からの政府見解について、前記防衛省・自衛隊HP掲載の「憲法と自衛権」(http://www.mod.go.jp/j/approach/agenda/seisaku/kihon02.html)の関係部分を引用します。
「わが国が、国際法上、このような集団的自衛権を有していることは、主権国家である以上当然です。しかしながら、憲法9条の下において許容されている自衛権の行使は、わが国を防衛するため必要最小限度の範囲にとどまるべきものであり、他国に与えられた武力行使を実力をもって阻止することを内容とする集団的自衛権の行使は、これを超えるものであって、憲法上許されないと考えています」
つまり従来からの政府解釈によると、憲法9条が設定しているルールは、自衛権の行使は、自衛のための必要最小限度の範囲にとどまらなければならない、ということです。
そして集団的自衛権の行使は、自衛のための必要最小限度を超えるものであるので、憲法9条によって許容されない、という説明です。
憲法9条の解釈改憲をめぐる議論では、集団的自衛権の行使が、自衛のための必要最小限度を超えるのかという点について、従来からの政府解釈を変更するか否かが、最大の焦点になるのではないかと、私見では思います。
以上となります。長文を読んで頂いて、ありがとうございました。
それではまた。