日々の重なり

ロースクール出身者の公務員試験受験、法律ネタなど

ピザ屋のチラシ配りは「住居侵入罪」?~木村草太著『キヨミズ准教授の法学入門』を読んで~

秋の夜長は読書とブログ

 

 こんにちは。

 今回は、前回の記事 でも文献を参照させて頂いた、憲法学者・木村草太先生の『キヨミズ准教授の法学入門』(星海社新書、2012)について、「ピザ屋がチラシ配りのためにマンションに立ち入ったら、住居侵入罪が成立するか?」という事例を検討しつつ、感想を書きたいと思います。

 

 『キヨミズ准教授の法学入門』には、「日本一敷居の低い法学入門」というキャッチコピーがついています。実際にこの本は、高校2年生の主人公キタムラと、風変りな法学者キヨミズ准教授の交流を描く物語形式をとっており、彼らの物語を読み進めていく中で、法学への理解が自然と深まっていきます。

 また、「キヨミズパネル」「キタムラノート」によって本文の内容を適宜分かりやすくまとめていたり、漫画家・石黒正数先生が登場人物のイラストを描かれていたりと、読み手を意識した工夫が凝らされています。

 

 さらに、「高校の文化祭で、本人の同意なしに撮影した写真を展示することは、肖像権の侵害にあたるか?」(165~173頁)、「受精卵を盗んだ行為について、窃盗罪(刑法235条)は成立するか?」(193~198頁)といった事例も数多く設定されており、キヨミズ先生が分かりやすく解説してくれます。

 以下では、『キヨミズ准教授の法学入門』のChapter4「青春の文化祭に、法解釈の真髄をみた」より、「法解釈」が問題となる事例を紹介します。

 

 

 ピザ屋のチラシ配りは「住居侵入罪」?(150~153頁)

 キヨミズ先生によると、「法解釈」が必要となる場合の一つとして、条文をそのまま適用すると、あまりにも不都合なケースが挙げられます。

 たとえば、マンションの郵便受けにピザ屋がチラシを配るとき、わざわざマンション管理人の許可をとることはしません。ところが、このピザ屋のビラ配りは、刑法130条を読む限り、住居侵入罪に該当してしまいそうなのです。

 

刑法第130条前段 正当な理由がないのに、人の住居・・に侵入し・・た者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。

 

 この条文を読む限り、宅配ピザのチラシを配るために、管理人の許可を得ないまま団地の共用部分に立ち入ったら、「住居」への「侵入」にあたってしまいそうです。

 しかし、この結論は常識に反するでしょう。ピザ屋のビラが郵便受けに入っていると少し迷惑だなーと感じることがあるとしても、ピザ屋に刑事罰を科すというのはあまりにも行き過ぎです。

 

 そこで、適切な結論が導かれるように、刑法130条の「侵入」という文言を法解釈(=別の言葉に置き換えて明確に理解できるように)します。具体的には、「侵入」とは「管理者の明示又は黙示の意思に反する立ち入り」であると、法解釈します。

 そして、「管理人は、ビラ配りに文句を言ってこなかったんだから、ビラ配りを黙示的には許可していた」という事実が認定できれば、ピザ屋のマンションへの立ち入りは「管理者の黙示の意思」に反さない立ち入りとして、「侵入」に該当せず、住居侵入罪は成立しないことになります(152頁)。

 

 

 『キヨミズ准教授の法学入門』では、上述した「法解釈」(Chapter4)以外にも、「法的三段論法とは何か?」(Chapter1)、「社会科学(政治学・経済学・社会学・法学)とは、どんな学問なのか?」(Chapter2)、「日本法の体系は、どうなっているのか?私法と公法の違いは何か?」(Chapter3)など、法学の基本的知識について、物語形式で分かりやすく学ぶことができます。文章も大変読みやすく、法学に関心がある方には、かなりお薦めの良書です。

 

 

 著者の木村先生は、集団的自衛権をめぐる憲法9条解釈改憲ヘイトスピーチの法的規制などの憲法問題について、ラジオや講演会でも明快に解説されています。最新の出演情報については、木村先生のtwitterhttps://twitter.com/SotaKimura)で確認できます。

 

  以上となります。

 それではまた。